Mitrasphere Phiar's Soliloquies
フィアについて | 夢幻花に堕つ 後編
フィアについて | 夢幻花に堕つ 後編
夢幻花に堕つ 中編
空気の爆ぜる音が響き渡る。それに遅れて樹木の倒れる音も連続する。木から木に飛び移り、飛び交う魔法を回避していく。
「はっ…はっ…!」
少しでも油断をすれば先程と同様、一撃で体力を持っていかれてしまうだろう。緊急回避手段も、回復手段も、もうない。しかしこちらから攻める隙はない――否、攻めるつもりもない。
つまるところ、これは詰みだ。攻撃を避け続ける少女の気力が尽きるのが先か、彼女の攻撃が少女を捉え倒れされるのが先か。
いずれにせよ、現状では少女の敗北は絶対だった。
綻びがあるとすればそれは――
「っ……」
時折彼女が見せる苦い表情だろう。
あれは攻撃が当たらないからではない。フェルゼーに魅了されながらも深層意識が少女に攻撃することを拒んでいることで起こる僅かな拒絶反応だ。
だがそれも、一瞬のこと。
その刹那にフェルゼーの魔力が高まり深層意識は檻の中へと押し戻される。
「おねえ…ちゃんっ…!」
苦し紛れに声を発する。
それでも絶えることのない攻撃魔法の応酬を、持ち前の反射神経と弓術士としての回避技術で木から木に飛び移り、彼女にとって見通しが悪い場所と死角を駆使して避け続けているが、少女の限界は既に近い。
残された時間は少ない、ここで少女が倒れれば彼女は二度と取り戻せないだろう。魅了に抗う彼女の意志もいずれは砕かれる。表層意識が浸食されたのと同じように。
あの苦い表情は、彼女の最後の――!
「――そんなのダメ!」
一瞬考えた最悪の結末を振り払うかのように少女は木の幹を蹴った。
長時間攻撃を回避し続けて発生したはずの疲労を感じさせない圧倒的な速度での突進。
その速度は恐らく今までで最も早く、一部の世界においては瞬動術と呼ばれる移動技術に迫る速度だっただろう。だが、彼女はそれにすら反応する。
そもそも彼女は木々を高速で移動する少女を目で追っていたのではない。空気中の魔力残滓、風の魔法を使用することで発生した風の流れとその乱れ、そう言ったもので反応していたのだ。
跳躍の瞬間に爆発的な加速する為には足場に魔力や気力を込めて跳ぶ必要がある。
すなわち、その瞬間。
収束の瞬間が感知できる彼女には速度による翻弄は意味を成さず――
「…っ」
分かっていた。
位置、ベクトル、速度、何を狙っているのかさえ。
なのにその一瞬だけ、体が動かなかった。
なんで、なんであたしはセフィーと戦っているのかと。
そう、あたしの中で何かが訴えたのだ。
「ああああああっ!」
その迷いを否定するかのように、振り払うかのように、彼女は杖を振り上げる。
だが、僅かに。
空中で更に虚空を蹴って加速した少女が、その速度を僅かに上回る!
「あっ…」
刹那、彼女の目の前に着地した少女が武器を持つ彼女の腕を掴みもう片手で肩を押すと地面へと押し倒した。呆気に取られフィアはあっさりと自分よりも少し小さな相手に馬乗りを許す。
――恐らくこれは最後のチャンスだろう。
「お姉ちゃん!目を覚まして、私だよっ…!ねぇ…!」
「セ…フィー…?」
彼女はその呼び掛けにきょとんとしたような表情を浮かべる。最初に逢った時、戦闘中は呼び掛けに応じることすらなかったと言うのに。
それは、長時間に及ぶ戦闘の結果だった。
フェルゼーに操られた表層意識は彼女が持つ魔力が尽き掛けていても関係なく、フェルゼーを護る為、外敵を倒すために強力な魔法を酷使し続けていた。
ならば、魔力切れで操られた表層意識が弱まるのも当然のこと。
少女が費やした時間は無駄ではなかったのだ。
『どいてー、わたしのおねえちゃんを取らないで!はっぱさんひらひら~!』
フェルゼーの呼び声と共に巻き起こる鎌鼬。だがそれは一定の範囲を巻き込むほど巨大なモノだ、避けても地面に倒れている彼女は巻き込まれるだろう。
――元より、少女に避けるつもりなどないのだが。
「んぐっ…!」
少女は地面へと押し倒した彼女を覆い被さるようにして護り、その鎌鼬を自身の身で受ける。そのダメージは深刻でもう治療薬はないと言うのに再び裂傷が少女の全身に浮かび上がる。着ている服はボロボロになり、至るところから血が伝い、零れ落ちる。
「馬鹿っ…セフィーどいて…!」
「ぁ…お姉ちゃん、…目覚めた?」
目の前で自分を護るために傷付く少女を見れば、我に返ったかのように必死の声を上げる。
少女の傷は深い。
…だと言うのに、笑って、安心したような表情でこちらを見下ろしている。
自分は一体何をしているのかと、心の中で叱咤する。
朧げだが、敵対した記憶もある。
「よかっ…た。――もう、いなくなっちゃやだよ?」
弱々しい、今にも泣きそうな少女の声。
先程まで必死に自分を取り戻そうと戦っていた少女からは想像できない程に、年齢相応の少女の姿がそこにあった。無理をさせてしまったことは想像に難くない、それに自分を護る為にこんな傷まで負って…。
『ふふ、ふふふ。そーだいいことおもいついちゃった!あなたもいっしょにこればいいの!そーね、それがいいわー!』
しかし、フェルゼーは待ってはくれない。
ぐったりと倒れ掛かる少女に向かってフェルゼーは愉しそうに笑い、空中を滑る様に素早く移動を始めた。力尽きたセフィーに避ける手段はなく、未だ地面に倒れたままのフィアにも救う手立てはない。
『ねえ、いっしょにこない?』
――だが、この場においてもなお。
少女が稼いだ時間は無駄ではなかったと知れ。
突如、重量感のある音がフェルゼーと彼女たちの前に響き渡る。
刮目せよ、これなるはあらゆる邪悪をも撥ね退ける絶対的な障壁。
救う為に全てを費やした彼女とは違う。
護る為に全てを費やしたその信念の姿を。
ガンッ、と鈍い音を立ててフェルゼーが弾き飛ばされる。
「エアルシールド。」
そして彼女らを護る魔法の盾が展開される。細剣と盾を持ったその男は振り返らずに眼前の敵だけを見据えている。後ろの少女たちが立ち上がることを分かっているように。早く立ち上がれと、その背中が語る。
「残龍…。」
その姿を見据え、彼の者の名を呟く。
どうしようもなかったこのタイミング。そこで自分たちの前へと駆け付けてくれた彼に込み上げる想いもあったが、彼女はその一切を飲み込み、自分ができることに集中する。
力尽きた少女を横たわらせ、フィアは武装を切り替えた。
その間にも前線で地団駄を踏むようなフェルゼーの嘆きと、その攻撃の悉くを無力化していく男の掛け声が聞こえる。どうやらフェルゼーの力では彼の護りを貫けないようだった。
「セフィー、しっかり…!」
魔力を込め、ホーリークラウンを掲げる。即座に神々しい程の光が少女の身体を包み込み、全身の傷を瞬時に癒していく。聖者の施しを受けた少女の身体はその瞬間、万全のものとなる――!
「あ、れ…。お姉ちゃん?…それに、残龍さんも…?」
「よう、随分と無茶したみたいだな。だがまぁ、おかげで間に合ったぜ。」
「――セフィー、その…ううん。フェルゼーを倒すよ…!」
「うんっ…!」
立ち上がった二人は前線にいる残龍の元へと駆け寄る。
残龍が護り、セフィーが皆の能力を高め、フィアが治癒と攻撃を担当する。いつも行動を共にするこの三人が連携を取れば、フェルゼーに後れを取ることなどなかった。
戦いはフェルゼー討伐と言う形であっさりと幕を引く――。
後に、魅了に囚われたフィアと単独行動をしたセフィーは残龍にみっちりと叱られたようだ。夢幻花はこれにて閉幕。魅了によって囚われたフィアを見事救出することができたのだ。
囚われた当人はシエルの皆に心配を掛けてしまったと、心底反省し顔も出せないと暫くは口癖のように落ち込んでいたが、その度にセフィーに気にしなくていいのに、と笑われる始末だったそうな――。
ああああああ、やっと書けた…!
え?文章構成?知らないよそんなの!国語苦手だから!!
国語って言うか日本語苦手?ワタシニホンゴ、ワカラナイネー!
いつも書いててそうなんだけど、最後の方が適当になっていくよね…。多分疲れてるんだと思う、うんだって、文章書くの苦手だもの…。
あ…、始まりの物語の後編も書かなきゃ…(死んだ魚の目)
最終更新日: 2018/06/16(Sat) 11:00:00